インプラント治療

インプラント治療の前に知っておいてほしいこと

本質から外れた近年のインプラント治療

私が勤務していた大学病院には「インプラントがぐらぐらして痛くて噛めない。」、「インプラント周囲の歯肉が腫れて血が出る。」といった症状を訴える患者様が来院されておりました。そのような患者様を検査してみますと以下の原因があります。

  1. インプラントを埋入する位置や方向に問題がある
  2. インプラントに過剰な噛む力がかかっている
  3. インプラントが歯周病に罹患している

近年のインプラント治療は「早い」、「安い」、「痛くない」という本質からはずれた方向で普及しています。

抜歯してすぐにインプラントを埋入する方法、歯肉を切らずに骨を見ないでドリルで穴を開けていく術式などが流行しています。抜歯後すぐにインプラントした方がよい場合もありますし、歯肉を切らない方が出血や痛みが少ないかも知れません。これらの新しい手法はすばらしいと思います。

ですがどうでしょう、経験の少ない先生が基本を踏み外すと埋入位置や方向を誤りやすく、手術時の手違いが致命傷になり、早期にインプラントの脱落を招く原因となっています。また通常の手術でも7割の患者さんが鎮痛剤さえ飲まなかったというデータがあります。

本来のインプラント治療とは

インプラント上の歯を作る場合、仮歯を入れ、口の中全体のバランスを考え、よく観察し、最終的な歯を作っていかないと過度な咬合力によってインプラント周囲の骨がなくなるばかりでなく、噛み合わせの歯も失うことがあります。ですからインプラントの本数が多くなると仮歯を2度、3度作り直すため治療期間が長くなる場合があります。

また、インプラント上の歯を白いものにした場合は破損することがあります。骨に埋まっているインプラント本体がしっかりしていれば何度でもやりかえられますので、それは失敗とはいいませんが、奥歯の噛む面はできれば金属にしていただければトラブルは少なくなります。

インプラントは本来十分な検査や診断、そして期間と技術が必要な分野です。決して安易に行われるべき治療ではないことを理解してください。時にはブリッジの方が審美的に優る場合があることも承知していただき、適応症について臨床経験豊富な私たちとよく相談して、長持ちするインプラント治療を選択してください。

歯周病とインプラントの関係

私は3名の大学院生と共に12年間にわたり歯周病とインプラントの関係について研究をしてきました。歯周病を引き起こすのは「歯周病関連細菌」と呼ばれる数種類の細菌ですが、これらの細菌がインプラント周囲炎の原因になり、また、残っている歯からその細菌がインプラントに移り症状の悪化とともに細菌叢が変化してくることを突き止めました。

ですから、インプラントをする前に歯周病の治療をきちんとしておかないとインプラントも歯周病に罹患し周囲の骨が失われていくのです。インプラントは歯周病の管理ができてはじめて行える治療です。歯周治療の手技をマスターしていればインプラントの周りの歯肉を自然な歯に近づけることができます。つまり美しい歯を蘇らせるのは技工士さんだけの力ではなく、歯肉を形成できる歯周病専門医なのです。

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